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はじめに
生体機能の解明や臨床検査のためには,DNA,蛋白質,細胞などに対する高性能バイオセンシング技術の開発が必要不可欠である.特に,生体分子や細胞を,その場で(in vitro),しかも非標識で分析する技術の開発が強く望まれている.本稿では,そのような計測技術の1つである表面赤外分析法について,その測定原理を簡単に述べ,2,3の測定例を紹介する.
ヒトゲノムの塩基配列が決定され,バイオ関連研究はポスト・ゲノムの新たな段階に入っている.DNAの塩基配列の解読により,すべての蛋白質の構造と機能を明らかにして生命現象を解析するプロテオミクスや,DNA塩基配列によらない遺伝子発現制御にかかわる後成的DNA修飾(DNAメチル化など)であるエピジェネティクス(epigenetics),SNP(single nucleotide polymorphism;単一塩基多型,スニップ)解析に基づいたオーダーメイド医療の実現など新しい研究課題が提起されている1~5).これらの研究を進展させるためには,革新的な生体解析技術,特に生体物質間の相互作用を検知する高性能なバイオセンシング技術の開発が必要不可欠である.そのために,われわれは,表面を生体解析のセンシング媒体として,ナノエレクトロニクスやナノフォトニクスなどの工学的手法とバイオロジーを有機的に組み合わせて,新しいバイオセンシング技術を実現することを目標に,以下のような研究課題に取り組んでいる.まず,①ナノスケールで構造制御した生体に適合する表面を形成し(土台となる表面を用意する),②その上に生体分子認識機能を有する薄膜や分子を構造制御・配向制御した状態で形成し(表面に機能を持たせる),③その機能表面の分子認識情報を高感度,高精度で物理信号に変換する技術を確立し(分子認識情報を取り出す),そして,これらの要素技術の複合化・集積化により,④実際にバイオ分野(薬学・医学・医療)に応用する.目指す技術は,表面ナノテクノロジーとバイオロジーを有機的に組み合わせて生体情報を引き出す工学であることに因んで「表面バイオトロニクス(Surface Biotronics)」と名付けている.
本稿では,上記の研究課題③に焦点を当て,半導体表面を利用した赤外分光バイオセンシング技術について述べる.まず,表面赤外分光を用いた非標識センシング技術について述べ,次に,この技術を用いた最近の研究成果として, DNA相補対形成(ハイブリダイゼーション)検出や抗原抗体反応検出を紹介する.
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