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はじめに
フラーレン(C60)はベンゼンやグラファイトと同様にsp2炭素で構成された炭素同素体である.代表的フラーレンであるC60では60個のsp2炭素が共役系を形成しているため三重縮退した低いエネルギーレベルのLUMO(lowest unoccupied molecular orbital,最低空軌道)に対応して6電子まで容易に可逆的に還元されることから,C60は電子受容体として働く.さらにHOMO(highest occupied molecular orbital,最高被占軌道)のエネルギーレベルも高く酸化も受けやすい.このような特性から発見当初より電子デバイス関連分野などへの新規素材として興味を集めた.
フラーレンは1985年にスモーリー,クロトーらによって星間物質として偶然に発見された経緯はご存じと思うが1),その後の合成法確立とともにフラーレンの研究は爆発的に増加した.そして,読者の方々がフラーレン研究でまず思い出すのは「高温超伝導」ではないだろうか.C60にアルカリ金属をドープしたイオン結晶(C60分子の間に金属が入っている結晶)に超伝導性があることが大々的に報じられたことがきっかけとなり多くの方々の注目がフラーレンに集まったように思われる.現在では,電気伝導特性が優れていること,巨大分子であることなどから電子デバイス関連分野ではナノチューブやナノホーンが注目を集めている.
現状におけるフラーレン類の実用化例としてはボーリングのボールやバトミントンラケットのシャフトへの添加が挙げられる.これらは従来から用いられてきた炭素素材へのフラーレンの添加で,それらの特性が向上することからの使用であり,発見当初には考えてもいなかった分野である.フラーレン研究が始まった当初の価格は1g70万円であったものが,純度は低下するが1g千円を切るところまできた影響が大きい.
フラーレンはベンゼン環が連なった化合物ととらえることができるが,同様にベンゼン環が縮合したベンツピレンなどの化合物と類似した毒性が懸念された.当初,われわれはこの毒性に関心を持ち研究をスタートさせたが,当時の研究レベルではベンツピレンなどと同様な毒性はないと考えられた.その後,発想を転換し,フラーレンの医薬品としての可能性を研究している.フラーレン類の物理化学的性質から類推される生理活性を種々検討し,新規医薬品リード化合物としてのフラーレン類の可能性を示してきた.まだフラーレン自体は医薬品として認められてはいないが,化粧品としては実用化されている.
また,フラーレン類のバイオセンサーへの応用研究も報告されているが,これらもフラーレンが電子の授受に適していることに基づいている.
本稿では,はじめにわれわれと他の研究グループが行っているフラーレンの医薬品への応用研究を述べ,次にセンサー分野でのフラーレンの可能性について紹介する.
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