今月の主題 ホルマリン固定パラフィン包埋標本からどこまで遺伝子検索は可能か?
話題
病理組織検体で蛋白質の網羅的解析(proteomics)はどこまで可能か?
青柳 憲和
1
Norikazu AOYAGI
1
1サイファージェン・バイオシステムズ(株)
キーワード:
プロテオミクス
,
バイオマーカー探索
,
抗原賦活法
Keyword:
プロテオミクス
,
バイオマーカー探索
,
抗原賦活法
pp.783-787
発行日 2006年7月15日
Published Date 2006/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542100668
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1.はじめに
次々と様々な生物のゲノム情報が解明され,mRNAの網羅的発現の様子(トランスクリプトーム)の解析も進んでいくなかで,ゲノム情報の最終的な表現型である蛋白質の総体(プロテオーム)を網羅的に解析すること,すなわちプロテオミクスが注目を集めている.プロテオミクスは生命科学の新たな学問分野としてだけでなく,クリニカルプロテオミクスや疾患プロテオミクスなどと呼ばれる,臨床医学や薬理学,創薬のための高度医療技術としての応用が期待されている1~3).
プロテオミクス解析では,試料から蛋白質・ペプチドを抽出するステップが非常に重要である.これまでのところ主に血清や生検検体などのような可溶化しやすい試料で研究が進められているが,これを世界中の研究機関で標準的に用いられている,10%ホルマリン固定,パラフィン包埋標本(formalin-fixed, paraffin-embedded;FFPE)で実施することができれば,重要な解析対象となるであろう.しかしながら,ホルマリンによる固定では分子内および分子間で共有結合的にクロスリンクが起こるため,蛋白質や核酸といった巨大分子は容易には抽出されにくいことが障壁となっていた.一方で,DNAやmRNAについては,近年の免疫組織化学染色における抗原賦活法(antigen retrieval;AR)技術4)の発展に伴い,FFPE標本から取り出すことが病理の現場で行われるようになってきている.
本稿ではFFPE組織検体から蛋白質を抽出して質量分析計で解析する手法について最新の報告5~10)を紹介する(図1,表).
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