今月の主題 感染症における危機管理
巻頭言
医療従事者の危機的感染症における危機管理の基本理念
戸塚 恭一
1
Kyoichi TOTSUKA
1
1東京女子医科大学感染対策部感染症科
pp.9-10
発行日 2004年1月15日
Published Date 2004/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542100456
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1. はじめに
近年,新興・再興感染症が大きな問題となっており,先進国サミットでも取り上げられるまでになっている.特に牛海綿状脳症(BSE)などの食物に関連した感染症の増加は食の安全への脅威となっている.現在,日本をはじめとした,アジアにおける鳥インフルエンザH5N1の大流行を認めており,ベトナム,タイ,カンボジアにおいてはヒトへ感染し,数名の死亡例が証明され,ヒトからヒトへ感染する新種のインフルエンザウイルスの発生が懸念されている.また2003年には新種のコロナウイルスによるSARSが広東省から香港を経て世界的に流行をきたし,8,422人が罹患し916人が死亡(死亡率10.9%)して大問題となった.これらの感染症はまさに危機的感染症であり,危機管理の判断を誤れば人類の存亡にも影響を及ぼす感染症である.SARSがあれほどに拡散したのは広東省における感染症に対する初期の危機管理が不十分であったことが一因とされており,情報を公開して正面から感染症の拡散を抑制することがいかに重要であるかが示された事例であった.SARSは今までヒトには存在しなかった新たな感染症で,一地方省や一国での解決は困難な感染症であった.その後WHOを中心とした国際的な共同研究が短期間に目覚しい成果を上げたことは,各国の英知を集中して,拡散抑制に対処することがいかに重要であるかを示したものである.
このように,われわれの周囲において,現代はこのような危機的感染症がいつおきても不思議ではないほどの状況に至っており,突然の危機に対して医師や検査技師がどのように対応すべきか考えておくことが必要である.
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