特集 病院経営の危機
病院危機現象と経営理念
一条 勝夫
1
1病院管理研究所経営管理部
pp.17-21
発行日 1963年8月1日
Published Date 1963/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541202172
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危機事実と危機認識
病院の存立をおびやかす危機事態の認識は経営主体別にかなり大きな違いがあるようである。客観的事実としての危機要因はあるていど共通性があるけれども,危機感を感ずる側の経営当事者の意識には,開設者の意図,経営理念が関係するのでかなり大きな振幅をもっているのである。
昨年末,ある病院の事務長さんと経理担当者の訪問をうけた。いろいろ聞いてみると,この病院は市立であるが,早くから地方公営企業会計制度で経理を行なって来た。ところが数年前から採算がくずれ出し,年々赤字が生じたので,その分を市中銀行から一時借入れてやりくりして来たが,借入金がたまりにたまって元金で億を越え,利子だけで千数百万円の巨額に達した。ところで病院としては赤字や負債対策もさることながら,明年の予算編成に当って収支のつじつまを合わせる都合上これに相当する収益源を考えなければならなくなった。いままでは患者数や1人当り収入のふくらましで年々の赤字に引当てて切りぬけて来たが,ついに限界をこえ今までのような方法ではおさまらないので智恵をかりに来たのだという。この病院では企業会計を早くからとっているので年々の赤字の事実は分かっていたはずであるし,それが年々雪だるま式に増加しているので,将来命とりになるであろうということは当事者には明白な事実であったはずである。すなわち危機の事実は早くから存在していたし,当事者も知らないはずはなかったであろう。
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