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人類数十万年の歴史は飢餓との戦いであったが,わずか戦後数十年の間に飽食の時代を経験することになった.この期間は42.195kmのフルマラソンにたとえるとゴール前の約数百mの距離に相当する.特に先進諸国に住む人間は生物学的に今まで経験したことのない環境下に置かれ,生物学的な対応が不十分なため,肥満・動脈硬化・糖尿病など生活習慣病の増加が問題となってきた.また,近代医学の発展は人類に多大な福音をもたらし,平均寿命を飛躍的に延ばしたが,一方では,加齢に伴う疾患・病態も重要な課題となっている.
このような状況下で,酸化ストレスが連日のようにマスコミを賑わし,酸化状態改善を目的にしたサプリメントや健康食品などが市場の目玉商品となっているのは,酸化ストレスが生活習慣病や加齢と関連することを示唆するエビデンスが集積されてきた結果であろうと思われる.ただ,本当に生体の酸化状態を把握でき,疾患・病態を反映する検査法が世間一般に理解され利用されているかどうかは疑問である.生体は酸化障害に対して防御機構が備わっているが,十分ではない.多少なりとも生体成分や組織が酸化により障害を受けると酸化生成物が生じてくる.臨床検査では,この産生物を「酸化ストレスマーカー」としてその測定法開発が進められてきた.本特集でも酸化修飾蛋白の検出に関して免疫化学的測定法を中心に,大澤俊彦先生が詳しく紹介している.今までに,脂質の酸化的障害の指標としてlipid peroxide(LPO),マロンジアルデヒド,酸化LDL,酸化Lp(a),アラキドン酸のフリーラジカル酸化生成物としてアイソプロスタン,核酸酸化障害マーカーとして8-ヒドロキシデオキシグアノシン,チミングリコール,アミノ酸・蛋白質酸化障害マーカーとしてヒドロキシロイシン,ヒドロキシバリン,ニトロチロシン,カルボキシメチルリジン,そのほか生体内の酸化成分としてα-トコフェノール,バイオピリン,オレイン酸,チレオドキシン,酸化型コエンザイムQ10など数多く列挙できるようになってきた.本特集では,これらのなかで注目されている代表的な物質として一酸化窒素,バイオピリン,DNA障害マーカー,LPO,カルボキシメチルリジンを取り上げ,最近の研究の動向や検査方法,臨床応用について紹介した.なかでも一酸化窒素は酸素,遷移金属,チオールなど生体内成分と反応しパーオキシナイトライト,窒素酸化物,ニトロソチオール反応物を生じるため,生体のレドックス制御物質としても位置付けることができる.
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