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花粉症は生命を脅かす疾患ではない.しかし,花粉飛散シーズンともなれば,眼・鼻・副鼻腔・口腔・咽喉頭・下気道・皮膚へと全身の広い範囲が花粉暴露のターゲットとなり,眼鼻の痒み,くしゃみ,鼻閉,涙や鼻汁過多,咽喉の違和感や咳,口腔アレルギー,下気道過敏性亢進による喘息誘発,皮膚の発赤や痒みなど,それぞれの部位に厄介な症状を現わすのが花粉症である.命に別状はなくても,日常生活,社会生活,精神生活,戸外活動,倦怠感や疲労などの身体の調子,睡眠など,生活の質(Quality of Life;QOL)が著しく障害されることは花粉症患者の調査結果でよく知られている.しかも,毎年花粉症に悩まされる人の数は,わが国全人口の10%を越えるという見過せない社会的問題となっている.草本・雑草・樹木の花粉が大気に飛散して人に吸入,吸収され,花粉抗原に対する免疫反応へと連鎖するのだから,まさに21世紀の課題である「環境問題」の1つであり,国も厚生/行政課題として取り上げざるをえない.アレルギー・リュウマチセンターの確立,免疫アレルギー研究施設の新設など,アレルギー克服に向けての長期計画が実現し始めた.小規模ながらNPO花粉情報協会に対する援助もある.しかも2005年の大量スギ花粉飛散という「予想できた自然災害」に見舞われて注目度が急速に増した.本誌今月号の主題「花粉症克服への展望」では,花粉抗原暴露から花粉症発症までのメカニズムにかかわる遺伝要因,環境要因,病態などの分子アレルギー学的解析から臨床診断・治療にわたって医学/医療の専門家の将来展望が語られている.しかし,花粉症克服のための総戦略図には,医療関係者のみではなく,多分野の人達の参加とネットワークによってこそ全うできると認識すべきである.
花粉抗原暴露からの回避は,最も基本的な環境因子克服対策の1つである.花粉症が特定の個体に発現する過剰免疫防御反応であり,その引き金となる抗原吸入を遮断し,回避することこそ第1に挙げられる発症予防/治療法である.しかし,抗原以外にこの過剰免疫防御反応の誘導や病態を修飾するのは,大気汚染や日常/社会生活からくる精神的ストレス,また,衛生仮説の台頭で注目されるようになった過度の清潔志向にもある.環境因子全体を花粉症克服のための重要な課題として視野を広げなくてはならない.
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