医療技術革新の展望とこれからの医療政策—ヒト遺伝子研究の意味するもの
医療の質をめぐるアメリカの対応
広井 良典
1
1厚生省社会・援護局更生課
pp.694-698
発行日 1995年7月1日
Published Date 1995/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541901560
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政策としての生命倫理
今回から数回に分けて,ヒト遺伝子研究に伴う様々な倫理的,社会的な問題について,アメリカにおいてどのような対応がとられてきたかを見てみたい.
遺伝子診断,遺伝子治療など,分子生物学のさらなる飛躍と医療への応用を背景に,生命倫理問題は新たな次元と政策対応の必要を迎えている.90年からNIHとエネルギー省共同の一大プロジェクトとしてスタートした「ヒトゲノム・プロジェクト」については,その予算(年間2億ドルで15年間,計30億ドルの規模)の3ないし5%は,遺伝子診断に基づく保険加入や雇用に伴う差別など,ヒト遺伝子解読に伴う倫理的問題等の検討にあてられるものとされ,そうした問題を扱う「ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)プログラム」が始められている.が,近年議会の下院やOTAから出された報告書は,ELSIのようなアカデミックな色彩の強い研究プログラムでは不十分であり,より「政策」志向的な調査研究がなされることが必要であるとし,こうした趣旨から,アメリカにおけるこれまでの生命倫理関連の国家レベルの委員会の例を参照しながら,特に遺伝子研究をめぐる問題を中心に調査・政策提言を行う新たな政策調査機関が必要であることをうたっている(注1).
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