厚生行政展望
行政裁量について
厚生行政研究会
pp.958-959
発行日 1994年10月1日
Published Date 1994/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541901355
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「クーラー事件」が問いかけたもの
記録破りの猛暑も終わりに近づいた頃,行政当局では,「クーラー事件」なる熱い問題が沸騰した.桶川市の生活保護受給者がクーラーを購入したことで生活保護受給資格が問われ,結果,クーラーは取り外され,当該受給者が脱水症に陥り入院に至った事件である.生活保護制度は,日本国憲法第25条1項にうたわれている「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という理念を直接的に実現するために設けられている制度であり,「最低限度」以下の生活を余儀なくされている約90万人(1か月平均)が制度の対象となっている.90万人は人口の約0.7%である.
クーラー事件で議論されたのは,何をもって「最低限度」以下であると認定するかの行政的基準であった.普及率が70%以下の高額機器を保有している状態は「最低限度」以下の生活とはいえない,という判断に基づいてとられた処分が思わぬ波絞を呼んだわけであるが,この事件に対して,有力メディアの多くは,「現場の状況に応じて,担当者が自由に裁量できる制度にしておくべきだ.行政はお役所仕事で血も涙もない」という論調であった.桶川市におけるクーラーの普及率がたまたま70%という微妙な値であったことから担当者自由裁量論が主張されたのであろうが,国民の税金を使用するのに,本来,自由裁量論はなじまない.
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