建築と設備・77
霊安室
八木澤 壮一
1
,
寺田 香
2
,
津嘉山 朝達
3
,
能嶋 秀信
4
,
柴田 昌雄
5
Souichi YAGISAWA
1
,
Kaori TERADA
2
,
Choutatsu TSUKAYAMA
3
,
Hidenobu NOJIMA
4
,
Masao SHIBATA
5
1東京電機大学工学部建築学科
2医療法人東札幌病院
3倉敷中央病院
4公立松任石川中央病院総務課
5掛川市立総合病院
pp.830-835
発行日 1992年9月1日
Published Date 1992/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900187
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死に場所としての病院
この7月1日の新聞で「サザエさん」の生みの親である長谷川町子さんの死が35日間伏せられていたことが報じられた.冠動脈硬化症による心不全のため,東京世田谷の自宅で息を引きとっていたのである.町子さんは同居していた姉の毬子さんに「家族による密葬と,納骨をすませるまでは,公表しないでほしい」との遺言をしておいたためであった.また2人の間に3つのことが約束されていた.それは70歳を過ぎたので具合が悪くなったら,①入院しない,②手術しないようにしてほしい,③もし亡くなったら密葬してほしいという内容であったという.
現代の老いと病と病院との関わり,死ぬと形のみ派手な葬儀が多くなっていることに対する町子さんらしい強い姿勢がなんとも爽やかに感じた.本人の思いが実現したのに国民栄誉賞などは場違いであったのではとも思える.このことに関して,詩人の富岡多恵子さんが「老いと病いのちがい」(8月20日,朝日新聞)で,柔らかい,全体が緩慢に朽ちて行く「老い」と得体の知れない硬いモノで貫通され,寸断され,部分化される「医療」の恐怖を峻別した切り口に同感させられた.
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