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■はじめに
高齢化の進行が医療現場に大きな影響を及ぼしつつある.大学病院のような典型的な急性期病院においても,80歳代の患者が一般的になり,主たる治療目的の傷病に加えて,高血圧や糖尿病,心不全,認知症といった併存する慢性疾患の管理が不可欠となっている.加えて,高齢患者はベッド上の臥床によってADL機能が急速に低下する.そのために,ベッドサイドでのリハビリテーションやADLケアのニーズが急速に高まっている.このような状況を受けて,例えば日本慢性期医療協会の名誉会長である武久洋三氏は,病院においては看護基準に加えてリハビリテーション基準,介護基準の設定が必要になっているという提言をしている1).筆者もこの意見に賛同する.
わが国の医療提供体制の根幹をなす診療報酬制度において,入院医療はどちらかと言えば急性期入院の視点から制度改革が行われてきた.しかしながら,高齢化の進行に伴い,患者の流れが大きく変わってきている.具体的には慢性期の患者のプールがあり,そこを起点とした急性期イベントによる入院が増加している.表1にその例を示した2).これは西日本の一自治体の国民健康保険および後期高齢者医療制度,そして介護保険のレセプトを個人単位で連結して,急性期病院であるDPC対象病院に脳梗塞,股関節骨折,心不全,一般肺炎(誤嚥性肺炎以外をここでは一般肺炎とした),誤嚥性肺炎で入院した65歳以上の患者について,入院半年前と入院1カ月後の医療介護サービスの利用状況を分析した結果を示したものである(入院期間は2014年10月〜2016年3月).脳梗塞患者の約30%,股関節骨折患者,心不全患者,一般肺炎患者の約50%,誤嚥性肺炎患者の約70%が入院する6カ月前にはすでに介護保険サービスを使っていることに注目する必要がある.これらの要介護高齢者は入院期間中に適切なリハビリテーションを受けることができなければ,高い確率で要介護度が悪化することになる.また,上記の入院を必要とするような急性期イベントの発症を予防するためには,ADLの維持向上を目的とした生活期リハビリテーションが提供されている必要がある.
高齢化が進むわが国においては,現場で起こっている,以上のような変化への適切な対応を促進する診療報酬の設定が必要である.わが国において,そのためのデータベースは相当程度整備されているにもかかわらず,その活用が進んでいない.特に実務者の問題意識にそったデータ分析の仕組みが必要である.本稿ではこの問題意識に基づいてリハビリテーション医療のエビデンス構築を目的としたビッグデータの活用について私論を述べたい.なお,筆者の専門領域が医療介護システム論であることから,制度論的なエビデンスに焦点をあてた記述になることをあらかじめお断りしておく.
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