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■はじめに
COVID-19(以後,新型コロナ感染症)の拡大(以後,コロナ禍)は全世界を巻き込み,政治や経済をはじめ国民の生活様式さえ変貌させた.例えば,介護老人保健施設(以後,老健)のターミナル・ケアも然りであり,ACP(Advance Care Planning)の概念をも変えざるを得ないものになっている.
以前は,施設内での大往生を希望すれば,ターミナル・ケアを提供している施設では最後まで安らかな入所生活を送ることができていた.しかし,今回のコロナ禍はそれを一変させたのだ.いかに入所者本人や家族が継続した入所を希望しようとしても,新型コロナ感染症に罹患してしまうと入院治療を余儀なくされてしまうことになった.これは,老健施設内での感染症防止対策が徹底できていなかったせいもあるが,老健施設は利用者の自立支援や尊厳保持のために「抑制」は厳禁であることはもちろん,闊達な交流やリハビリテーション(リハビリ),レクリエーションの提供などが求められていることから,いったん施設内で新型コロナ感染症に罹患者が出てしまうと施設内に蔓延しかねずリスクが極端に高くなるからだ.ましてや,認知症専門棟内で新型コロナ感染症が発生してしまうと,感染拡大防止は至難の業になる.
さらに,老健は医療提供施設には定義されているものの,日常的な医療提供が求められているだけであり,新型コロナ感染症治療のような非日常的な医療提供は想定外であった.厚生労働省からも通達が出ているように,老健施設内で新型コロナ感染陽性者が出た場合には原則入院となっているため,ターミナル・ケアを最後までその施設でと望んでいても,病院への転院が余儀なくされるのだ.ただし,今回の第5波のように医療の病床が逼迫するほどの感染拡大になると,入院できない入所者も出てくるので,今後は老健施設内でどのように軽症の感染者をケア・治療するのかなどの模索が必要になってくる.また,ACPを行う際にも,万が一新型コロナ感染陽性になった場合には専門病院などへの転院について説明と理解と同意が必要になってくるのは自明のことだ.丁寧な説明はもとより,病院への転院の際には,本人家族の終末期に対する意向をしっかりと伝える努力も重要になる.
本稿では,こうしたコロナ禍での経験を踏まえ,今後の地域医療構想の在り方を老健の立場から論じたい.
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