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■はじめに
1年間にわたって,地域医療構想の内容に関して,その目的および運用方法について説明してきた.また,この1年間はいろいろな機会を活用させていただき地域医療構想に関する講演会なども行ってきた.当初は単なる病床削減策であるという誤解があり,なかなか構想の目的がうまく理解していただけない状況もあった.本連載に関連して大きな転換点となったのは,本誌8月号に掲載した「鹿児島県姶良・伊佐地区における模擬『地域医療構想調整会議』」であった1).病床推計の考え方,データブックとして配付されている資料を活用した各地域の現在および将来の医療提供体制と傷病構造の分析を行うことで,今後の課題に関して医療関係者で認識を共有するプロセスを,この模擬調整会議で具体的に示せたことは,地域医療構想に関する理解を深める上で重要なステップになったのではないかと思う.あらためて鹿児島県医師会会長の池田先生をはじめとする関係者の方々にこの場を借りてお礼を申し上げたい.
本連載で説明してきたように,今回の地域医療構想では膨大かつ詳細なデータが各都道府県の関係者(行政および医師会)に提供されている.病床推計ツールを除くと,このデータは第6次医療計画策定時に各都道府県庁の関係者に配付されたものと内容的には同じものである.第6次医療計画では医療施設の機能分化と連携を進めることで医療提供体制を適正化するという目的を掲げ,それを達成するためにPDCAサイクルに基づいた展開を行うことが予定されていたが,残念ながら策定された計画のほとんどはこの目的に応えるようなものではなかった.
民間の医療事業者が大多数を占めるわが国で,国が強制力をもって構造改革を各施設に迫ることはできない.しかしながら,急速な少子高齢化,そして長期にわたる経済の低迷は医療を支える社会保障財政を厳しいものにし,そして高齢化に伴う傷病構造の変化が需要と供給のミスマッチをもたらしている.こうした状況を放置していれば医療施設そのものの経営が厳しくなり,最悪の場合には経営破綻ということもあり得る.高齢社会において,医療や介護は重要な社会共通資本である.その経営の持続性を保証するためにも,各施設が中期的な動向を考えることができるデータが必要なのである.地域医療構想で示された資料は,そのような将来を考えるための指針の一つであると考える.今後,こうしたデータは国の施策の中でも活用されていく.そこで連載の最後である本稿では,地域医療構想の今後について私論を述べたい.
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