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今回の特集は地域包括ケア病棟である.背景にある問題意識は本特集の各執筆者が共通して指摘している高度高齢社会への対応である.7対1看護体制の拡大に関する政策的な失敗もあり,我が国の入院医療提供体制は急性期に偏重したものになっている.しかし,医療と介護のニーズが複合化・複雑化する高度高齢社会ではこれに対応できる体制の強化が必要である.これが四病院団体協議会が提唱した「地域一般病棟(2001年)」であり,「地域医療・介護支援病院(2013年)」であった.そして,以上のような問題提起を受ける形で「入院医療等の調査・評価分科会」および中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を経て体系化されたのが今回の地域包括ケア病棟である.この経緯については本特集の丹藤論文・鈴木論文・猪口論文にある通りである.
地域包括ケア病棟は介護保険側から出された地域包括ケアの概念に医療側から応える重要な要素の一つである.鈴木論文が指摘しているように高度高齢社会では医療の裏付けのない地域の安心はあり得ないからである.しかし,そのあり方は地域によって異なっている.池端論文が示しているように,人的資源に制限のある中山間地域では慢性期の病院が急性期も含めた医療と介護ニーズに総合的に応える必要があるし,また大谷論文にあるようにそうした地域の公的病院の場合はいわゆる急性期の看板を持ち続けることを住民から要望される.他方,療養病床や介護施設が不足している東京のような大都市部では地域包括ケア病棟を持つ中小民間病院が大病院の退院患者の受け皿となり,かつ在宅ケアを支える中核施設として機能せざるを得ない.これは猪口論文で述べられていることである.このように「地域包括ケア病棟」のあり方はそれぞれの地域の条件によって多様なものになる.表現は厳しいが,「実際は『高齢化に基づく医療提供サービスの問題は,あくまでも住民の日常生活圏の問題であって,それゆえ,介護保険の保険者でもある市町村の中で工夫をして考えてほしい』と,いわば国から丸投げをされた」という大谷論文の指摘は正しい.医療関係者そして地方自治体は,それぞれの状況に合った「地域包括ケア体制」を作ることを任されたのであり,それを具体化する場が地域医療構想における「協議の場」である.その成否は「地域品質」を決めるものになるだろう.
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