医療の周辺 生物学—最近の話題・5
精神作用と「脳機械」
長野 敬
1
1自治医科大学・生物学
pp.244-245
発行日 1980年3月1日
Published Date 1980/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207108
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「医学の周辺」としての生物学を考えてみると,前回までもそうであったように,分析的な生命機構の解明,あえて言えば機械論的生物学の勝利の結果が,どうしても大きくクローズアップされる.この点は,機械論的に最も解明し難く思われる精神作用の座である脳についても,言えることである.
機械論の勝利と言いながら,それとは矛盾するような結果も包含しているのが,生物学での成果の特徴であって,脳の場合もその例に漏れない.例えば脳の機能局在ということは,大脳生理学の重要な結論であった.Brocaの中枢(前中心回下方,運動性失語症に関連)や,Wernickeの中枢(上側頭回後部,感覚性失語症に関連)の発見は,そうした傾向への"はしり"と言うことができて,ともに1世紀以上前の話であった.局在性の同定は視覚,聴覚,嗅覚と次々と進んだ.体性感覚野と運動野とが中心溝の直前と直後の部分に帯状に並ぶとして描かれた,いわゆるPenfieldの小人(ホムンクルス)の図は,局在観の一つの集大成として,だれでも目にしたことがあろう.
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