図書紹介
—高橋 有恒 著—「医者物語」
長谷川 泉
pp.63
発行日 1978年1月1日
Published Date 1978/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206427
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著者は千葉医大卒のクリニシャンで,臨床のかたわら小説も書く.すでに「甘き死よ来れ」「亡命者」などの小説を刊行している.「医者物語」も長編小説である.この作品は「医師の告発」「医者の告発」などとして一部既発表のものを主人公矢崎進の医学生時代から公害に悩む江東の三等院長にいたるまでの生涯で一貫させたものである。
医学生から戦争,見習医官,終戦,勤務医,スト,病院長といった波瀾に富んだ生涯が,患者との対人関係のなかで展開されている.著者は川端康成の「雪国」の舞台である越後湯沢温泉の高平旅館の当主の弟にあたる.その文学的才能は,「雪国」のモデル芸者や,川端康成との邂逅について書いた文章によってすでに知られている.小説の文章はヒューマニティにあふれた医師の目と,日本の医学の歪みをえぐり出す医師の目とがおりまぜられて柔かに読者の心をほぐして行く.
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