医療への提言・15
「診療過誤」について
水野 肇
pp.53-56
発行日 1977年9月1日
Published Date 1977/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206328
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診療過誤の先進国アメリカ
いまの医療のなかで,世界中の医師がいちばん気にしているのは,「診療過誤」の問題であるといっても過言ではないだろう.アメリカの医師の間では,「初めて,紹介なしにやってきた患者は,うかつに診療できない」とささやかれているという.ちょっとしたことでも,すぐに裁判に持ち込まれ,多額の賠償金を請求され,しかも裁判では,多くの場合,医師の敗訴に終わっているという.
数年前の話だが,18年前に手術した虫垂炎の手術が悪かったために腹膜炎を起したという理由で,2万ドルも医師が払わされたケースもある.いうまでもなく,18年前の手術の結果と,現在おきた腹膜炎との間には18年間という歳月があって,因果関係など医学的にわかることはまずない.しかし,結果は敗訴になったわけだ.このケースには,当時の雑誌にコメントがついていて,アメリカの裁判制度が陪審制度のため,陪審員が医学には関係のない人で,きわめて主観的に判断されるという理由があげられていた.もちろん,権利意識の向上したのが基本的な理由ではあるが,それに裁判制度がからんでいるというわけでもある.
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