人
妥協を排して前進する人 佐久総合病院長 若月俊一氏
大槻 菊男
pp.18
発行日 1972年5月1日
Published Date 1972/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541204648
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私の東大時代のおおぜいの弟子のうちでも,若月君はきわめて誠実で,正義感が強く,そして信念に忠実な人であった.とくに,世の中を見る目が鋭く,理論も明快であった.戦争中のことで,周囲から思想の点でいろいろ言って来たこともあったが,同君ははじめから私の教室にいて,どこまでも信頼のできる人であることを知っていたから,こちらからは,いっさいああせいこうせいと言ったことはなかった.
昭和20年の春,1年間の拘留から釈放された若月君を今の佐久病院に行くようにすすめた時,"君のような人が後に残ってやってくれなければ,これからの日本はどうなるか"というようなことを言ったことを覚えている.その後,上京のついでに時どき尋ねてきてくれたが,戦争がはげしくなっていたころで,いつも玄関で立話をするだけで帰って行った.以来ずっと,大いにやっているなと思って遠くから見守ってきた.若月君は,ひたむきで,正しいと思ったことにはいっさいの妥協を排して前進する人だから,戦争中に一度尋ねたことのあるあの美しい千曲川のほとりの農村で,これからもきっと,一生大いにがんばって行くことだろうと期待している.
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