麻酔科医日誌・8
麻酔科と吸入療法
山下 九三夫
1
1国立東京第一病院麻酔科
pp.72-73
発行日 1971年8月1日
Published Date 1971/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541204403
- 有料閲覧
- 文献概要
麻酔科医は吸入療法も始める 麻酔科医が最近手術棟外で活躍している部門に疼痛外来pain clinic, ICUがあるが,そのほか最近注目されているのは吸入療法insufflation therapyである.この対象となる患者は,多くは反復するがんこな咳嗽発作と種々な呼吸困難を伴っている‘喘息’として取り扱われた慢性気管支炎のものが大部分を占めている.なぜこのような部門に進出していったかというと,麻酔中や麻酔後に用いる人工呼吸器を噴霧療法nebulizationに応用しはじめたのに始まる.元来気管の中にチューブを入れて,ここに乾いた麻酔ガスや酸素を送ることは,換気上は効率はよいが,気道への生理的影響は問題とするところが多い.すなわち気道の線毛上皮の運動は25℃以下では止まってしまうし,そこに元来100%の温度をもっている気道が乾くと,排出されるべき喀痰や分泌物が固まってきて排除されにくくなる,これが全身麻酔後に喀痰排出困難が多い主因である.
この治療には術後に噴霧を行なうか,麻酔終了直後に温生食水で気管内洗浄bronchial toilletteをする方法がある.噴霧を行なうには外来では安楽椅子に背をもたれさせた楽な姿勢で行ない,人工呼吸器で噴霧薬液の吸入を行なう.噴霧粒子の大きさは1-4ミクロンが気道内部に十分はいるので,これにはたとえばバード人工呼吸器のように噴射式のものもあれば,超音波ネブライザーのごときものもある.
Copyright © 1971, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.