特集 看護
美しい看護婦
坂西 志保
pp.315-317
発行日 1960年5月1日
Published Date 1960/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201650
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誰でもみな,美しく優しい看護婦の思い出をもつているのではなかろうか。母親に抱かれて病院へ行き,お医者さんにおびえて泣き出し,看護婦さんに慰さめられたことがある。暗い不安な顔をした患者がたくさん待つている待合室で,廊下をいそがしそうに行き来する看護婦の姿を眺めて,自分も間もなく健康を回復することが出来るという自信をもつたことがある。まるで凱旋将軍でもあるかのように,自分の病症や手術をことこまかに語り出した人から,私を救つてくれたのは眼の美しい看護婦さんであつた。戦争中,屋根に這い登つた南瓜を見ようとして梯子から落ち,怪我して入院した。日に数回,寝返りをさせてくれた若い看護婦さんのあの柔らかい手を,いまでもなつかしく思い出すことが出来る。
私も一度看護婦になろうと思つたことがある。まだ学校へ行く前であつたが,腸チフスに罹り,入院した。若い元気な看護婦さんで,おとぎ話がうまく,指人形でお芝居も上手であつた。しかし,幼いながらあの制服を着て,権威をもつてことに当る態度にひどく感激し,家人のいうことはきかないくせに,看護婦さんの命令には絶対服従した。そして,自分は将来この職を選ぶと決意したのであつた。こう書くと大そう体裁がよく,物のよく解つた子のような印象を与えるが,実は,全快しても病院に残つて看護婦になるといつてだだをこね,家人を大いに困らせたのであつた。
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