読者の声
一つの試み
山田 芳一
1
1国立大阪病院庶務課
pp.66-67
発行日 1957年1月1日
Published Date 1957/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201191
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8月25日の病院管理当直日誌に午前1時頃浮浪者風の男2名が外来診療棟玄関横のベンチに寝て居たから,厳重取締る様にと記載され,同日夜勤婦長よりも同じ意味のことが庶務当直者に連絡されたので当直者に於て調査した事実が報告された。よく調べてみると捉えてみれば我子なりの諺の通り,血液銀行部の供血者達で,これ等の人々の大部は自分の血を売つて其の日の糧に,或は家族の医療費等に充てなければならない貧しい人達であり,服装も一見浮浪者風であるから,知らない人々には浮浪者に映ずるのであろう。病院とすれば手術患者や重症者の尊い命を救う血液を供血して呉れる大事な人々であり,この人達に依つて血液銀行が運営されて居るのである。これ等の人々が病院の定めた採血単位内の供血順番を取る為に早朝から甚だしいのになると前日から泊り込みをするのである。冬は院内で焚火をする,夏に院内の芝生の上に或はベンチに受付時間を待つて居る。時には仲間同士で諍をやる。病院の金物が次々と外されて行く,時には受付に荷物を預つて呉れと云うので預るとそれがドス(短刀)様のものであつたりする。それでも採血受付時間になると配給物を受取る時の様に黙つて一列に整列する。何時の間にかそこには「ボス」が生じて整列の順番が決められて居る。この順番も時には売買される。扱受付を始めると自分の名前が直ぐに口に出て来ない。「唖ではない」。どこの血液銀行でも採血後1カ月を経過しないと採血して呉れない。
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