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ある入院患者の記
久松 栄一郞
1
1中央大学体育部
pp.2-6
発行日 1955年3月1日
Published Date 1955/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200931
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昨年の10月末から12月末まで,約2ヵ月間国立東京第一病院に入院した感想記である。病気は十二指腸潰瘍の軽いものであつたが,第1回の手術後大網膜の癒著によつて,通過障害をおこし再手術をうけなければならぬ始末になり,2ヵ月間も入院しなければならないことになつた。その間入院当初の1週間は検査の時期であり,病的苦痛もなく全く健康状態で,一寸旅行に行つてホテルにでも泊つたと云つた按排で,その時の感想は軽症の患者の感じるぜいたくなものの一種と云つてもよいものであつた。開腹,胃切除,胃腸アナストモーゼの手術後の1週間は痛みと苦悶の期間で重症疾患者の感想とも云うべきである。胃腸通過障害の1ヵ月間は半ば病的苦痛と精神的苦悩の時期で,精神的障害を伴う時期であつた。退院前1週間の恢復期は明るい希望の時であることは申すまでもない。私の入院期間2ヵ月間は大体以上の様に区別することが出来ると思われるのであるがその間に感じたこと又各々別々であつた。筆を執つている現在なお再手術後2週間目で,体力もフラフラであり,頭も定かでない自信のない次第であるが,印象のできるだけ明かな時と思つて勇をふるつた次第である。
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