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患者と医師と看護婦の呼吸
千種 峯藏
1
1関東信越医務出張所
pp.8-12
発行日 1955年2月1日
Published Date 1955/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200920
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掻ゆいところに手の届くような——,ピツタリと呼吸の合つた——,という言葉の向う側にはイスカのように喰違つた——,どうもピントの合わない——,膚合いのシツクリしない——,という言葉が並んでいる。ピチピチした健康人では,その為めに,破顔一笑したり,苦虫を噛みつぶしたりするだけですむが,病人ともなれば,いずれは精神にも変調のあるところから,秤の振れも大きく,無上に有りがたがつたり,或は,執つこい憤りを発したりするのである。
病人というものは,治療の為めの,様々な,或は,徹底的な自由の束縛を受けるので,いやおうなしに,精神的変調の国に引込まれる。そこでは,日々の生活が,他動的に廻転されるので,病人は,只々人を頼り,人の働きかけを待つ身となつてしまうのである。その頼りにする人,働きかける人とは,とりも直さず,医師と看護婦である。この不自由な国で頼りにする人達の働きかけが,若しも,掻ゆいところに手が届くようであつたら,頼る病人の幸福はどうであろうか。その逆に,一向に呼吸が合わないとしたら,頼る病人め,期待外れの表情はどんなものか,凡そ察しがつくであろう。
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