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書評 保護室の実態と役割―三宅 薫(著)『行って見て聞いた 精神科病院の保護室』
中山 茂樹
1
1千葉大学大学院工学研究科
pp.724
発行日 2013年9月1日
Published Date 2013/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541102614
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保護室は,精神科治療プロセスにおける重要な環境として位置づけられている.厚生労働省の「医療観察法下の行動制限等に関する告示」は,患者の隔離についての基本的な考え方を「患者の症状からみて,本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く,(中略)その危険を最小限に減らし,患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるもの」だと示している.しかしこれまで,この空間への施設性能として求められてきたものは,自殺防止への配慮や,耐破壊性能が中心であり,治療的環境を達成しようとする議論には至っていなかったように見える.また,たたずみ・就寝・休息・食事・排せつの行為空間が一体となっていること,室内の空間性状条件,外部空間との関係や,窓からの景観などに対する具体的設計指針が医療側から示されていなかったことなど,治癒的環境を建築計画としてどのように創造するべきなのか明らかではなかった.
著者は「保護室を治療・看護に積極的に生かす」とし,保護室は治療・看護のための空間であることを主張しておられる.また,巻末にある中井久夫神戸大学名誉教授のコメントにも「精神病院は最大の治療用具である」というエスキロールの言葉が引用されており,医療・看護の領域から,建築空間を単なる器ではなく,治療に直結するものであることをご指摘いただき,建築に身を置くものとして,その重みを深く受け止めた.
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