特集 病気と社会を考える
人はなぜ病気になるのか―進化医学の視点から見た病因論
井村 裕夫
1,2
1京都大学
2財団法人先端医療振興財団
キーワード:
痛風
,
ヘモグロビン異常症
,
感染症
,
肥満・糖尿病
,
集団遺伝学
Keyword:
痛風
,
ヘモグロビン異常症
,
感染症
,
肥満・糖尿病
,
集団遺伝学
pp.14-18
発行日 2011年1月1日
Published Date 2011/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101856
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
現在の医学は病気の原因を明らかにし,それに基づいて診断,治療を行うことを王道としている.例えばインフルエンザの場合には,咽頭からウイルスを検出し,陽性なら抗ウイルス治療を行う.この場合,原因は一見して明らかなように見える.しかし,インフルエンザの流行期に,なぜ一部の人が罹患するのかは明確には説明できない.その背景には,きわめて複雑な免疫機能の個人差と既往の感染歴があるからである.
慢性疾患の場合には,原因の解明はより難しくなる.例えば痛風を例に挙げてみよう.この病気は血液中に尿酸が増加し,それが何らかの理由で関節内に析出して起こる結晶性関節炎である.したがって原因は高尿酸血症であるということができる.しかしなぜ一部の人に高尿酸血症が起こるのか,完全には明らかになっていない.そもそも血清尿酸値は動物にくらべてヒトでは著しく高い値である.これはヒトと一部の霊長類で,尿酸酸化酵素の遺伝子に突然変異が起こって機能を失っているからである.細菌以来,生物が連綿として受け継いできたこの酵素をなぜ失ったかは,明らかでない.しかしそこに痛風の遠因があると言える.それを理解しようとするのが進化医学である.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.