特集 病院空間とまちづくり
癒しの空間としての病院―建築の視点から
辻野 純徳
1
1有限会社UR設計
pp.822-827
発行日 2007年10月1日
Published Date 2007/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101029
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病院の空間はすべて癒しの空間であるべきで,少なくとも患者に害を与える空間であってはならない.しかし,その姿は各時代の生活環境や医療を映し,変貌を遂げてきた.イタリア・フィレンツェのシエナ大聖堂前にあるサンタマリア・デッラ・スカラ病院を見学したことがあるが(9世紀に巡礼者や困窮者のための施設として,10世紀からは病院として15世紀まで増改築をくりかえし完成,市立病院ができるごく最近まで使われていた.大聖堂広場に面した長いファサードの一部がサンティッシマ・アンヌンツィアーリ教会(13世紀)となっている),病室はナイチンゲール病棟のようなベッド配置で,枕元に窓はなく,足元正面に窓があるだけ.お世辞にも快適と言えない.しかしその時代には,ここに入れば医療や看護が受けられる天国であったに違いない.
大正12年倉敷中央病院の設立に際し大原孫三郎が「病院らしくない明朗な病院」づくりを命じたのは,当時の病院が病院臭さの漂う精神的な重圧のかかる場所であったためと第二代理事長大原總一郎は述べている.当時「別荘かホテルの如く」と評された,癒しの空間を持つ倉敷中央病院も,その後の増改築で第一病棟が竣工した1975年や外来棟が竣工した1981年の時代と,25~30年経った現在とでは,環境の快適性やプライバシーへの考えもより厳しく問われるようになり,かつての「ホテルのような病院」から「病院らしい病院」を求めることが必要となった.
そこで,本稿では癒しの空間としての病院を,建築家の立場から,筆者が増改築に携わった倉敷中央病院を中心に,事例を挙げて考えてみたい.
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