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■医療制度改革の位置づけ
わが国の社会保障は,健康保障としての医療保険の他に,所得保障としての年金,所得の側面から最低限の生活を保障する生活保護,日常生活保障としての介護保険,労働保障としての雇用保険,労災保険等により構成されている.これらの社会保障の中で,医療保険は国民すべてが生涯を通じて一貫して必要とするものである.そして,他の先進諸国と同様に成熟する少子高齢化社会において,国民の健康への関心の高まりを反映して,従来の経済成長至上主義の経済的諸価値と比較しても,経済価値が着実に高まる社会的傾向が存在している.この基本認識に基づき医療制度改革を進めるにあたっては,医療と経済を同等に位置づけたバランスの取れた議論が主軸とならなければならない.財政均衡至上主義に偏った改革論に対しては,バランスの取れた医療政策論が対峙しなければならない.
■国民皆保険制度の基本理念
戦後,わが国の皆保険制度の下で堅持されてきた基本理念は,「負担の公平性と給付の平等性」であった.負担の公平性とは,保険料率に基づき,所得額に応じて保険料を納めることから,被保険者の支払う保険料額は各々異なるといえども,その格差は所得の再配分という視点から「公平性」に基づき正当化された.他方,給付の平等性は所得の格差にかかわらず,公的医療保険制度の下においては人の命は平等に扱われなければならないとの考えに基づくものである.この基本理念は,21 世紀の今日においても堅持すべきものと考える.したがって,都道府県ごとに各医療保険をより独立したかたちで運用するに際し,都道府県間の給付については医療制度改革大綱にも明記されているように,「不適切な格差」が生じないよう特別な配慮が必要となる.この配慮を反映するため,高齢者の医療の確保に関する法律の第 14 条の規定に「公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において」とすることは極めて重要であり,今後の政省令の策定および運用にあたっては注視していかねばならない.特に,厚生労働大臣が参議院厚生労働委員会において,答弁したように各都道府県ごとに診療報酬を定めることは「特例中の特例」であり,安易な適用を慎まなければならない.
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