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イギリスの医療保障制度は,よく知られた NHS (National Health Service, 国民保健サービス)である.その特徴は,第1に,ヘルスケアが必要な時に誰でも利用できること(universal coverage),第2に,健診など予防からリハビリや緩和ケアまで含む包括性(comprehensiveness),第3に,利用時に費用の自己負担がほとんどないこと,である1).NHS は,1948年に創設されて以降,保守党政権下での1990年改革,ニューレイバー(新しい労働党)による1997年以降の改革など,いくつかの節目を超えてきた1,2).しかし,3つの特徴については,一貫として守られてきた.
これらの改革前後の状況を記述することに比べ,その政策決定プロセスを説明するのは容易ではない.ヨーロッパ11か国の医療政策について研究した経済学者と政治学者たちも,医療制度改革のプロセスは単一の理論で説明することはできないと述べている3).なぜならば,そのプロセスには,多くの因子が複雑に絡み合っているからである.医療に深く関わる領域に限っても,医療従事者や医療財政を担う者,患者,医療にかかっていない国民など,立場・利害の異なる多くの利害関係者がいる.さらに,医療制度は独立して存在しているのではない.それが組み込まれている医療以外の制度や歴史,政治・政策の変遷の文脈などと切り離して考えることはできない.
これらのすべてをカバーすることはできないので,小論では,医療費配分のあり方など政策決定プロセスに影響している4つの要素または判断基準に絞って述べる.それらは,①効果,②効率,③公平・公正,④エンパワメントである.これらは,医療政策研究における評価基準としてほぼコンセンサスとなっている2).前2者は,それぞれ医学的合理性と経済的合理性に対応し,後2者は,社会的合理性と言い換えることもできる4).そして,これらのすべてを同時に満たすことは困難であり,バランスが重要なものである2,4).
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