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アメリカの医療保険制度は,1990年代以降大きな転換点に直面し,様々な改革が試みられてきた.ただ,改革は全体として漸進的なものにとどまり,既存の民間中心の制度が維持されてきただけでなく,近年では民間・市場原理をさらに拡張しようとする動きすらみられる.なぜアメリカでは,このような政策がとられているのか.それを明らかにするためには,アメリカの医療保険政策をめぐる決定プロセスについて,理解する必要がある.
■アメリカの医療保険制度
他の先進諸国と比較するとき,アメリカの医療保険制度は,国民皆保険制度の不在に象徴されるように公的保険が限定的であり,歴史的に民間保険中心の医療保険制度が発展してきたという点で,特殊な性格を持っている.実際現在に至るまで,公的医療保険としては,1965年に成立した,65歳以上の高齢者および障害者を主な対象とするメディケアと,貧困層を主な対象とするメディケイドの二つの制度しか存在しない.これに対して,1930~40年代以降急速に発展してきたのは,民間保険制度である.とりわけ,企業雇用者が民間保険と契約し,その保険料の多くを負担することによって,従業員(とその家族)に保険給付を保障するという制度が,発展してきた.1980年代後半以降,こうした民間保険制度に,さらに重要な変化が生じた. 「マネジドケア (managed care) 」と呼ばれる,新たなタイプの民間保険の急速な発展がそれである.これは,保険者が医師―患者関係に介入し,患者が受診可能な医師・医療施設の制限や,医師の診療内容や診療報酬の規制によって,医療費の抑制を図ろうとする保険を指している.現在では,このマネジドケアが,アメリカの民間保険制度の中で支配的な地位を占めている.
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