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当院の現状
筆者が勤務している病院は30年前に開設された.都心から電車で1時間ぐらいの東京のベッドタウンともいえる横浜市北部の医療中核病院であり,典型的な一線の急性期病院である.院内で調査したところ,年間で死亡する患者は680人を数える.
当院の許可病床数が648であるから,年平均1ベッドに1人の患者が死亡することになる.昔は,老人はしばしば家で死んだが(私の祖母もそうであった),現在は,大半の人は病院で死ぬ.こうなると『マルテの手記』1) に書かれているパリの巨大な市民病院のように,大病院は死を作り出す一大産業であり,人の死に至る過程は製品の生産過程であり,その死は単なる製品の完成に過ぎなくなってしまう.
その治療に当たる医師も看護師も単なる生産現場の工員となり,人の死も日常の点描となり,各個人の死にはそれぞれの人生のドラマがあるにもかかわらず,何の感動の対象でもなくなってしまう.
さらに,現在の低医療費政策の結果,急性期大病院は在院日数を短縮せざるを得ず,安定期に入った患者は転・退院を強要される.医師数,看護師数は,米国の優良病院の1/3であり,スピリチュアリティを実践する専門職も存在しない.このため,急性期病院では,本特集のテーマであるスピリチュアリティの実践は今後ますます困難にならざるを得ない.
さらに問題は,スピリチュアリティの概念が普及していないことで,試みに,この言葉が当院の医療現場にどのくらい浸透しているかを知る目的で,看護部の協力を得て,緊急アンケートを行った.集計総数は465名で当院看護師600名のうちの約78%であった.
このうち,「スピリチュアリティという言葉を聞いたことがある者」291名(62.2%),「ない者」174名 (37.4%),「聞いたことがある」と答えた者のうち,内容を多少は知っている者は201名(全体の42.9%),内容を知っている者のうち,日頃実践している者は27名(5.8%)とごく少数であった.これは,現在の急性期病院では,スピリチュアリティを実践しなくても運営できることを示している.
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