プログレス
新しい人工内耳の開発
奥野 妙子
1
1東京大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.619
発行日 1987年9月15日
Published Date 1987/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518103861
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1.初めに
難聴には中耳炎など中耳伝音系の病気による伝音難聴と感覚細胞や聴神経が障害される感音難聴とがある.伝音難聴は聴力改善手術や補聴器により聴力を獲得することができるが,感音難聴は一般に治療が困難で特に高度の感音難聴に対しては通常の補聴器も役にたたない.
現在,人工内耳と言われているものはこの高度の感音難聴者を対象として開発された新しい装置である.例えばストマイ難聴では,内耳の感音細胞が消失しているが,感覚細胞に接続している神経は残っていることが多い.このような場台に,電極を直接内耳に埋め込んで聴神経を刺激するのがこの方法である.蝸牛の働きは鼓膜を通して入ってきた音を分析して,その信号を聴神経に伝えることにある.したがって人工内耳においてはspeech processorという内耳の働きをする装置を体外に携帯し,そこで分析された音の信号が蝸牛に挿入された電極を通して聴神経に伝えられる.通常の補聴器は,単に音を増幅して鼓膜に与えるだけだが,これと比べ人工内耳は根本的に違ったものである.埋え込む電極の数は一つのもの(single channel)から複数のもの(multi channel)まであり,現在もっとも多い数は22チャンネルである.聴神経の数は約3万本あり,22のチャンネルでこれらの聴神経を刺激することは正常の蝸牛に比べるとその機能が著しく劣ることは容易に想像できる.
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