プログレス
アルコール依存症の増加
小片 基
1
1札幌医科大学衛生短期大学部
pp.415
発行日 1986年6月15日
Published Date 1986/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518103578
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アルコール飲料消費量の増加は世界的傾向として注目され,公衆衛生上の重大な問題となっている.このことは1975年WHO(世界保健機関)の総会において論議され数カ国の実態調査も実施された.同年夏アルコール問題研究者による作業部会がジュネーブで開かれている.この部会報告書によって,従来の「慢性アルコール中毒」や「アルコール症」の呼称はやめて,アルコールに関連する心理的,身体的および社会的障害を広く包括する用語として「アルコール関連障害」の採用が提唱された.そして,アルコール関連障害の中核となる病態像を「アルコール依存症候群」と規定した.このようなWHOの動向は各国に大きな影響を与え,アルコール関連障害の診断や治療,疫学的調査および予防対策などの諸分野に貢献している.これまで,実態がほとんど公表されなかったソ連においてもゴルバチョフ政権に変ってからアルコール関連問題対策が打出されたことは周知である.
わが国の現状はどうかというと,経済の急速な成長に伴ってアルコール飲料の消費は先進国の動向とよく似た増加傾向を示しており,いまだブラトーを形成したと判断される状況ではない.飲酒人口の拡大化もまた明白な実態である.たとえば,女性飲酒者に対するわれわれの生活実感は30年前と現在では大いに違うことを誰もが否定しないであろう.しかし,わが国の飲酒者層の急速な様変りは諸外国の注目をひきながら,全国的実態はほとんど把握されていなかった.
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