The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 19, Issue 10
(October 1985)
Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Ⅰ.はじめに
脳性麻痺児の運動障害が初期に出現するのはその口腔運動機能においてである.実際,下顎,口唇,舌,口蓋,喉頭,咽頭部の協調障害は最も早期にそして,容易に中枢神経系障害を発見できる徴候である.そしてこの様な徴候をよく観察できる場面が摂食行動においてである.
摂食行動は脳性麻痺児においても正常児においても環境に適応する最も基本的な能力の一つである.理学療法士,作業療法士,言語治療士が脳性麻痺児の摂食障害に対して取り組まなければならないのも,摂食行動そのものが多くの機能の発達の基礎になっているからで,次のような側面が考えられる.
①生命維持機能として重要であるのは明白で,さらに身体成長および発達の基礎となる.また,特に下顎,歯等の口腔器官の発育にとっても摂食が必要である.
②摂食パターンの異常性は将来の話しことばの発達に影響を及ぼす.話しことばの機能のためには,非常に高度な巧緻的運動協調性が必要となる.摂食に必要な口腔運動機能は話しことばの前段階をなしている.
③摂食場面はさらに,初期においては母子の相互作用の発達にとって重要なものであって,それ以降は子どもの情緒的,社会的機能の基盤をなす.摂食困難な状態が脳性麻痺児にみられる時,子どもばかりでなく,その母親の心理的安定性もそこなわれる危険性がある.
④最後に,重症心身障害児の死亡原因として,嚥下性誤飲が報告されていることに注目したい.これは直接原因になっているのではなく,肺炎や呼吸器疾患をひきおこす間接的な原因と考えられている.
このような誤飲をおこす原因として,子どもをうしろに傾けて食べものを流しこむようにすることや,食物の種類などが考えられる.
以上のようなことから,摂食障害をもつ脳性麻痺児に対する治療アプローチの必要性が考えられて種々の試みがなされてきた.今回はこの分野においての世界的権威であるスイスの言語治療士,Helen Mueller女史による治療アプローチを基礎とし,筆者の臨床経験を加えた食事指導を紹介する.
Copyright © 1985, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.