プログレス
運動負荷試験
紅露 恒男
1
1筑波大学運動処方研究特別プロジェクト
pp.1035
発行日 1981年12月15日
Published Date 1981/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102539
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従来,臨床医学は医療機関内での主として安静状態における病態観察に基づき診療を行って来た.近年診療の概念が拡大され,日常生活の規制を含む患者の全生活面に関し,食餌や生活様式,社会活動中の身体面のみならず精神面でのストレスなどの疾患に及ぼす影響をも検討し,診療に反映せしめる段階に至っている.このような情況ではただ安静時の検査データのみによっては適切な生活指導はもとより,薬剤投与に際しても,また,総合的な治療方針の立案にも不如意と云わざるを得ない.
それではもう少し動的に病態をとらえるため,被検者を動かしてみればよいではないかということになる.これが運動負荷試験である.身体運動時の生体の反応に関しては運動生理学や体育学の分野で主に運動能力の検定のため心拍数や呼吸機能を中心に研究されて来た.これを臨床に導入するに当っての主要な対象は潜在性の心疾患,特に冠不全病態の診断であったと云っても過言ではなかろう.その最も普及したものがマスター(Master)の二階段試験である.年齢・性・体重による階段昇降頻度表に従ってシソグルなら1分半,ダブルなら3分間,9インチ高の二階段を一定のリズムで往復昇降させ,その前後で心電図をとるが,要する所は身体に対する運動負荷により循環系負荷,すなわち心仕事量を増やし,心筋酸素消費量を高め心電図の主としてST(T)反応からどの程度冠循環がこれに追従し得たかをみるのが目的である.方法が単純で特殊な器具を要さず簡便なため全世界に普及した古典的な試験法であった.
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