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はじめに
生体に電気を通した時に現れる刺激効果を治療に取り入れたのが通電療法である.
生体内の細胞は,静止状態では,細胞膜内外の電解質イオンの膿度に差が認められる.ナトリウムイオンは細胞膜外で,カリウムイオンは細胞膜内で濃度が高い.
この結果,細胞内は外に対して電気的にマイナスの状態を保っている.この場合に認められる電位差を静止電位と呼んでいる(-90mV程度).
これに電流を通じ膜を刺激すると,膜内外の電解質イオンは電位差を減少する方向に交流し始める.膜の電位差が一定の値にまで減少すると(-50mV程度),膜の性質は大きく変化し,多量のナトリウムイオンが細胞内に流れ込み,細胞内外の電位差は一時的に逆転する.
この現象を膜の興奮と呼び,この際発生する電位を活動電位と呼んでいる.細胞膜内外の電解質イオンは2~3ミリ秒後には再び安静時の状態に戻る.
通電による生体への刺激作用は,連続的に電流を流すより,電流の方向を変えるか,断続的に電流を流す方がより効果的である.通電頻度は1秒間に1回刺激を与える方法を一サイクルと呼び1Hzと表わす.通電頻度が1000サイクル103Hz以上になると,電流の刺激効果に代り温熱効果が現れてくるため,刺激効果を利用するには103Hz以下の断続通電方式を用いなければならない.
このような103Hz以下の断続通電方式を低周波通電と呼んでいる.
電流の刺激効果は,刺激頻度のほかに,電位,持続時間,波形,電流の変化速度などの要素によっても影響をうける.
波形を例にあげると,矩形波は電位が低くても効果が認められ,脱神経筋には三角波が適当であるという具合である.
通電刺激に依る生体反応の最も一般的な現象は,神経組織の興奮と関連する組織の反応であろう.
低周波刺激としては,手足を走る神経線維を介してか,直接筋線維に加えられることが多い.
遠心性運動神経線維への刺激は,支配下の筋線維の収縮を引き起こすことから,末梢神経損傷に対する治療の一手段としてかなり一般的に行われていたが,神経,筋組織の性状,形態が明らかになるに従って次第にこの効果は疑問視されるようになり,代って,神経,筋単位(運動単位)が温存されている脳卒中,頭部外傷など中枢神経系の障害に対する治療訓練に用いられるようになって来ている.
求心性神経線維を刺激した結果認められる除痛効果は,以前から臨床経験例として報告されていたが,最近では理論的な説明もある程度可能となり,臨床的にもいくつかの方法が実施されている.
求心性神経線維の刺激効果の一つに痙性の軽減が報告されているが,痙性自体,客観的表示がむずかしいこと,他の物理的刺激によっても効果があるため,振動刺激による効果が試行されている.
この項ではリハビリテーションと関連を持つ運動神経への応用と,いわゆる除痛効果について報告例も含め紹介する.
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