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はじめに
1965年に,理学療法士・作業療法士法が制定され,医学的リハビリテーションを担当する新しい専門職種が誕生した.
それは,医学の中にリハビリテーションの理念を採り入れて,心身の障害によって副次的に奪われた人間らしく生きる権利の回復を目差し,全人間的復帰を具現するための主要な技術として,理学療法は旧来のそれとは全く装いを新たにして出発したのである.
'60年代なかばから'70年代後半にかけて10有余年間の理学療法における技術的進歩は目覚しいものがあった.一連のファシリテーション・テクニックの登場はその例である.
わが国においては,理学療法士協会が職能団体として設立され,法人格をもつ公認団体に成長し,国際的にも世界理学療法連盟に加盟し,内外ともに格好だけは整ってきた.
理学療法士の養成校も増えて19校になり,学校教育法に基づく医療短大においても教育が開始されるようになった.
協会の会員数も2000名に達しようとしているし,学会も14回をかさねてきており,'80年に入って10代後期から20代前期に向って,人間としては最も成長する時期になってゆくことになる.
リハビリテーションの思想が普及するにしたがって,医学的リハビリテーションのニーズも多様化し,理学療法を必要とする対象も量的に拡大してきた.
対象の障害も重度化する現象も顕著になっている.
理学療法の技術的進歩によって,出生後の超早期治療,ICUにおける術直後の理学療法,CCU等の特殊治療室における理学療法が急性期から早期に行われるようになってきた.
治療医学では治癒しない障害に対して接近しなければならない理学療法の役割は今後益々重要なものになってゆく可能性がある.
障害を対象とする理学療法は障害を構成するImpairment(機能障害)に対する予防,回復の技術的進歩は著明なものがある.特に中枢性麻痺に対するファシリテーション・テクニックによる回復促進は目覚しいものがある.
しかしながら,障害者の全人間的回復を図るには,同時にDisability(能力障害),Handicap(社会的不利)に対するアプローチも平行して重要である.
理学療法士はImpairmentの機能回復だけではなく,Disability(能力障害)の改善を図るとともに,Handicap(社会的不利)の環境改善をも平行して行う必要がある.そのようにして,始めて全人間的復帰を図ることができるのであり,障害者の全人間的自立を尺度にしてリハビリテーション効果が判定され,それにしたがって理学療法の最終効果も判定されねばならない.
しかしながら,Disability,Handicapに対する理学療法士のアプローチは貧弱であり,理学療法の成果はまだ不十分である.
単に訓練室内における身体的自立だけでは無意味であって,地域社会における自立でなければならないし,それは何らかの社会的役割を再獲得することである.そうして初めて社会的自立を達成することになる.
以上のような現状認識に立って'80年代の理学療法界の展望について述べてみることにする.
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