The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 12, Issue 10
(October 1978)
Japanese
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Ⅰ.はじめに
現在,米国各地で手のリハビリテーションセンター(Hand Rehabilitation Center)が,開設され,ここ数年,米国手の外科学会が,フィラデルフィアにて,セラピスト向けに講習会を開催している中で,今年2月に,ダラス(テキサス州)において,米国手の外科学会の後楯を得て,OT,PTという壁を越え,手の外科領域に携わるセラピスト達が,手のセラピストの会を発足させた.筆者自身は,手の基礎研究から臨床の場に出て,このWestern Pennsylvania Hospital(以後WPHとする,ピッツバーグ・ペンシルバニア州)で3年目を迎えている.今回は,特に手の外科領域におけるOTについて,筆者の経験の中から,Arthroplasty(関節形成術:関節置換・人工関節Silicone rubber prosthesis:Swanson's typeを中心に)におけるOTについて紹介する.
人工関節の研究は,Swanson,Niebauer,Flatt,そしてCalnanらの各グループによって進められ,すでに10年の歳月をへており,現在,米国だけでなく世界各地で使用され,日本においても,山内や井上らの報告にもあるように,最近広く使用されている.特に,Swanson(Silicone rubber prosthesis)とNiebauerら(Silicone-Dacron mesh prosthesis)の人工関節は有名である(図1).
1977年のGoldnerとMaddenの二つのグループによる報告とNiebauer,Swansonらの報告をあわせると,MP関節の関節置換術における術後の治療訓練の方向性は,筆者らの経験からも,かなり信頼できるものであるといえる.筆者らもこの11カ月間に4例(6手:20人工関節:Swanson's type)を経験しており,これらを通してMP関節の関節置換術におけるOT(手の外科領域におけるOT;Hand therapy)について考えてみたい.
関節置換の手術方式は,確立されつつありながら,術後のアプローチについて,多くの医師は,その重要性を訴えながらも,実際面では,うまくいっていないのが現状である.人工関節そのものの信頼性が医学的論争の焦点であった第1段階から,ここ数年,第2段階として,各研究者が5年以上のフォローアップ調査をとおして,自動的関節可動域(以後自動域とする)の改善を中心に,日常生活動作における使用できる手,すなわち機能的な手(実用手)としての回復といった所に論点が移行している.事実,実験的には50年程の使用にも耐えられるといわれている人工関節だが,臨床的には,多くの問題を残している.
WPHにおいては,形成外科医と整形外科医の二つのグループから手の患者が送られてくる.WPH:OT部は,火傷のSplinting,Pressure Garment等の治療を通して,協力してきたため形成外科医との関係が深く,筆者自身がスタッフOT(1976年9月)となってから,100例程の手の患者の治療に携わってきたが,その95%以上が形成外科医からの処方である.OTが,手の症例会議に出席するのみならず,術前の診察に立ち合う機会をえる.一方整形外科医との関節は徐々に改善されながらも一方通行の場合が多い.このような関係は,患者の予後に大きく影響をあたえる.
ここで紹介する4例は,Silicone rubber prosthesisが使用され,うち1例(患者3)の左手は,ダイナミックスプリント(Dynamic splint)と静的夜間用スプリント(Night Splint)(共にPlaster castによる)で手の外科領域のPT,OT(以下Hand therapyとする)プログラムは,特になく,患者自身によるセラピーのみであった.この症例の右手は,医師との相談によって,Hand therapyが行われているものである.その他の3例(4手)は,術前からのアプローチが行われたものである.この結果をみるといかに術後の治療訓練プログラムが重要であるかが理解できるし,特に,Hand therapyの役割は大きいといえよう.ここで,4例(6手)の症例に入る前に,MP関節の関節置換術の術後における一般的なHand therapyの治療訓練アプローチについて紹介する.
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