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Ⅰ.はじめに
盲人,特に中途失明者はその初期において社会適応のための訓練(いわゆる失明者生活訓練)3,4,5)が必須なものといえる.この訓練は医療と職業的リハビリテーションをつなぐ重要な過程であり,その内の幾つかは医療もしくは医学的リハビリテーションと併行して初められるべきものである.
例えば「オリエンテーションと行動」に関してのみ考えても,視力を失った患者はその日から床上やその周辺において残存感覚を用い環境からの情報を得たり安全に行動したりすることが要求されるのである.失明者のためのリハビリテーション施設における本格的な職業診断1)や社会適応訓練に先立って「晴眼者による誘導法」6)や「単独行動技術」等の基礎的訓練が行なわれることにより,失明者が安全で確実に行動でき,更にその後の社会復帰への自信と意欲とを持つことができるケースは決っして少なくないであろう.この意味で医療関係,特に眼科やリハビリテーション科の職員は充分失明初期の患者に対して理解をもち,患者の次の段階への移行を円滑化し一貫したリハビリテーションへの道が開かれることが望ましい.またこれらの基礎的訓練は行動訓練士以外の失明者リハビリテーション施設の専門職員にとっても習熟する必要があることはいうまでもない.いずれにせよ行動訓練上以外の職員にとって必要なのはここに述べる限定された環境における基礎的な訓練まででそれ以上,例えば白杖使用による行動訓練等5)は専門の訓練士にまかせねばならない.
医療機関においても必要に応じてリハビリテーション施設からカウンセラー,行動訓練士,および生活指導員等3)の派遣を受けられることが望まれるが現状では施設や専門職員の不足により実施は困難であろう.これは今日までわが国においては一貫した失明者対策4)が行なわれておらず,リハビリテーションの観点からみると失明者はほとんど無視されてきたことによるもので,今後の改善がせつに望まれるところである.
この小文は米国において標準化されつつある単独行動技術1,2,7)を参考とし,著者らが反復実習を重ねて関係職員の研修用として著したものである.これらの訓練を実施するに際しては行動訓練士の指導のもとに「目かくし」をして行なわれねばならない.この様な「目かくし」訓練は前にも述べた6)ように技術的のみならず心理的にも関係職員が失明者の中に一歩も二歩も踏み込んだことになり,失明者に接する上での精神的な拠り所ともなるであろう.失明者の側からみれば,このような基本的行動訓練を経て一歩一歩心理的独立が勝ち取られていくのであろことを銘記すべきであろう.
以下基本要素別の訓練法についてはⅡ―6の項で,訓練生に言語で指示を与える場合等の一般的方法については「Ⅶ.おわりに」の中で,また「オリテンテーションと行動」に関する専門用語の解説は「付録」で述べる.
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