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世は正に飽食の時代といわれ,グルメの時代である。本来Gourmet(グルメ)とは食通のことであるが,普通の食通というよりはむしろお酒に関しての知識が豊富で酒の鑑定家のことを称していたようである。しかし下戸の入には申訳ないが,食べることと酒は両者が相俊ってさらに昇華することから変じて美食家のことをグルメと称するようになったそうである。しかし小生のように旧人類のはしくれに連ねさせてもらっている者にとってはグルメという言葉はあまり好まず,やはり食いしんぼうという言葉のほうが日本人にはよりぴったりするような気がする。私は生来食いしんぼうではあったが決して美食家ではないと現在でも思っている。ただ自分で食べたいと思っているものを自分で作って食べるのが一番おいしいと思っている。なぜ自分で料理?を作るようになったかというと,父が耳鼻科の開業医であり,小生の小さい時は戦後のどさくさの時代で,母も父の診療を手伝っていたので,物心ついたときには昼食,夕食を外来が終わり一段落してから母が作るのを待っていなければならないことがしばしばあった。それがだんだん待ち切れなくなりとにかく早くご飯が食べたくて,小学入学前から時々食事を適当に小生が作らされたことに端を発しているようである。それがだんだん昂じて父にたまに料理屋さんに連れていってもらうと,これは何をどうして作ってあるのかと興味が出てきて,同じ物を自分ででぎないかと帰ってからいろいろ試作を重ねるようになってきて,自分なりのものができた時の喜びはたいしたものである。その先の悲劇はその喜びを自分だけにとどめずすく誰かに食べてもらい批評を乞いたくなる癖がいまだに抜け切らないのである。試される人には迷惑千万なことと後で思うのだが。そんな食いしんぼうが日ごろ食べ物について思っていることの一部をご披露したい。
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