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中耳真珠腫の治療のうち,保存的治療は手術を前提としない場合はもちろん,手術を前提とした場合にも非常に大切である。中耳真珠腫は骨破壊性であるから手術的治療を原則とするが,合併症を起こしていなければ即手術の必要はなく,とくに強い炎症を伴っている場合には,保存的治療はその後の術式を含めた治療方針の決定にきわめて重要である。それは中耳真珠腫においてもその多くに鼓室形成術が行われ,そのさい慢性化膿性中耳炎におけると同様に,十分に炎症を抑え活動性病変を消退させてから行う必要があるからである。さらに保存的治療によって炎症性病変が限局化し鼓膜所見が明瞭になれば,X線所見などと照らし合わせて術式決定が容易となり,より聴力改善が期待できる術式が選択されやすくなる。したがって手術の適応であっても手術を安易に行うことなく,可能な限り十分に保存的治療によって乾燥化をはかり,妥協のない手術が行われるべきである。すなわち保存的治療は手術的治療を行うための重要な前処置である。また初診時手術を考えなければならないような症例であっても,保存的治療により手術をしなくてすむ症例もある。
中耳真珠腫の保存的治療の基本は真珠腫の除去と乾燥療法にある。すなわちポリープ,肉芽,真珠腫塊などを手術用顕微鏡下に慎重にかつ徹底的に除去清掃し消炎をはかる。ポリープや肉芽は中耳真珠腫の存在を強く疑う所見であるので,これらにより真珠腫門(偽穿孔部)が閉鎖しているさいには,真珠腫の存在を見逃さない注意が必要である。ポリープや肉芽を除去しドレナージをはかることによって炎症が急速に消退し,中耳真珠腫で最も危険な二次感染による急速な骨破壊とそれによる合併症を予防することができる(図1A,B,C)。
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