鏡下咡語
医の倫理
佐藤 武男
1
1大阪府立成人病センター
pp.384-385
発行日 1983年5月20日
Published Date 1983/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209610
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「暗涙」にみる喉摘者の苦悩
五味川純平氏の手記「暗涙」(文芸春秋1981年9月号)を読んだ。この手記は著者が喉頭癌のため喉頭全摘出術を受け,その後の食道発声練習の過程とその間の激しい精神の動揺を記したもので,教えられることが多かった。
著者の友人が,「おまはん,声が出んのやったな。ほな,俺が筆談しようか」と言ったのに対して,<俺も筆談しようか,という言いぐさは何か>と内心に実に激しい憤りを感じたと書いている。この心情は突然に言語機能を喪失した者の不安定な精神状況を示すものだと言ってしまえばそれまでだが,私はそうは思わない。むしろ著者の作家としての鋭敏な感受性を評価したいのである。
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