カラーグラフ 目でみる耳鼻咽喉科
自然にできた鼓室形成
天津 睦郎
1
1神戸大学医学部耳鼻咽喉科
pp.614-615
発行日 1980年9月20日
Published Date 1980/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209122
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真珠腫性中耳炎では破壊的病変が高度であるのに聴力があまり障害されていない症例をみることがしばしばある。この場合,上鼓室ないし上鼓室から乳様洞にかけての病変から鼓室腔が分離された形となっている。このような病態では,耳小骨連鎖が鼓室形成術のIII型やIV型の形となっていて手術に際して伝音系に手を加える必要のない場合がある。一方,非真珠腫性中耳炎でも,薄い再生膜によって外耳道と鼓室は遮断され,耳小骨の高度の破壊による変形転位や消失がみられるのに伝音系としてはIII型やIV型の形をとり,聴力が比較的よく保たれている症例がある。固有鼓室に病変のあまり及んでいない真珠腫性中耳炎では,伝音系が修飾を受けつつ小鼓室が形成され聴力の保持に役立っているが,非真珠腫性中耳炎で過去に固有鼓室の炎症が高度であったと推定される症例でも,よく観察すると,鎧骨頭あるいは骨頭から脚にかけて再生鼓膜がおおいIII型の形をとったり,卵円窓窩に再生鼓膜が張りIV型の形となって聴力が余り障害されていない症例に出会うことがある。この場合,薄い再生鼓膜をとおして正円窓窩を含む中・下鼓室に耳管へ連なる含気腔がうまく形成されて聴力の保持に役立っているのがわかる。高度病変が存在したにもかかわらず聴力を損なうことが少なく,しかも乾燥耳となっている点,自然の力に敬服せざるを得ない。このように中耳炎による病変あるいはその治癒過程で耳小骨連鎖が修飾を受けながらも伝存機能を保持した形で再建されている場合,「自然にできた鼓室形成」と呼ぶことができる。
以下に各症例の鼓膜所見(右)とその模式図およびオージオグラムを供覧する。
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