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杉はわが国に固有の針葉樹であり,春一番の吹き荒れる頃に開花し,大量の黄色い花粉を霞のように広く空中に飛散させる様は,まさに一幅の絵であるが,この花粉が季節的に鼻の過敏症を発症する抗原の一つであることは皮肉な自然のいたずらと申すべきである。
昭和51年7月から52年7月の間,厚生省医務局空中花粉研究班(長野・他)の調査による空中花粉の全国分布図をみると,日本列島を南から北へ,2月初旬から5月上旬にかけ花紛前線が北上しながら杉花粉を散布し,日本海側より大平洋側で,特に関東地方一帯にもつとも濃厚にみられる。杉の開花の多寡ひいては空中花粉散布量の増減は年次的に著しく変動し,51年は著しく多く,52年には減少しているという。これは柿の実のよく生る年と生らない年があるようなもので,局地的調査のデータによると隔年毎に多寡を示すところが多いと記されている。たとえ花粉の多い地方であつても,花粉採取場所の地形的関係によるのであろうが,同班の中間報告をみると,51年3月に富士市(国立富士療養所)では1097.6cm(線グラフ1cmが10コ/cm2/day)と全国で最高であるのに,近くの静岡市(国立静岡病院)では50年4月に20cm,名古屋市(国立名古屋病院)で51年3月に34cmと著しい差がみられる。かつて私は49年9月に東海地方会で「今春多発した鼻アレルギー」を報告し,多発の状況,抗原の種類,眼症状の併発など,杉について注意を喚起しておいた。たまたま東京の某大学耳鼻科教室から51年2月〜5月の鼻アレルギーについてアンケートを求められたので,これ幸いと同期間の調査を行なつて返事を差し上げた。とんで53年7月に名古屋の関谷氏が中部地方部会連合会で「春に多発した鼻(杉)アレルギー」と題して杉抗原を名指しで報告され,その中で最近になつて杉の皮内反応陽性率が多くなつていることや,これは自家製アレルゲンを使用したので陽性率が高くなつたとも考えるといわれた。これら諸家の発表をみて,この数年間の推移を綜合して考えると,年次的とはいつても,実は杉の開花の多い昭和の奇数年の春に一致して,季節性アレルギー性鼻炎が多発する傾向があるように思われる。最近アレルギー性疾患が年毎に増加することは定説となつているが,以上の年次的傾向について一般に認識がうすいように思われる。私の調査不足があるかも知れないが,蛇足ながら重ねて附言しておきたい。
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