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いたみは人類と共にあり,三叉神経痛についていえば古くは紀元一世紀から記載されているらしい。したがつて三叉神経痛の治療については幾多の試みがなされているわけで,まつたく新しい治療法というものは厳密には存在しない。いたみそのものの本質についても未知の部分が多く,また医師が患者のいたみの訴えを理解することも容易ではない。いたみ自体が患者の環境,個性,教養,体験などの相違から表現の仕方もおのずから異なつてくるので,医師は患者の言葉をたよりにして患者の悩みを判断しなければならぬ。ここに述べる三叉神経痛についていえば,顔面のいたみのなかでもいたみは強烈であり,また特徴的でもあるのでこの点では医師は割に容易に理解できるし,患者が必死にいたみに耐えている場面に遭遇したらその動作,表情などを決して忘れることができないであろう。さて三叉神経痛は古来多くの名で呼ばれているが,tic douloureux,trigeminal neuralgiaの名称がもつとも慣用されている。三叉神経痛には,(1)症候性三叉神経痛(symptomatic)と,(2)特発性三叉神経痛(idiopathic)とがあげられるが,(1)では炎症とか腫瘍とか原因の明らかな疾患の一症状として現われるものであり,歯の疾患や眼,鼻,副鼻腔疾患(上顎癌の歯のいたみなどを考えよ)などがその例である。(2)については神経根の圧迫説や,一種のてんかん様の神経過興奮説などのいくつかの説があるが,結局その本態は今日もなお不明というほかない。顔面痛という意味からいえば,
顔面痛{非定型的顔面痛 三叉神経痛―症候性・特発性
の如く分類される。実地臨床上にはこの特発性のものがもつとも多く,人口の老齢化とともに漸増の傾向にあるといつてよい。
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