特集 良性腫瘍
総論
良性腫瘍とは
亀谷 徹
1
1国立がんセンター研究所病理部
pp.711-719
発行日 1977年10月20日
Published Date 1977/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208556
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すべての医学生は医学部在学中に,病理学の講義をうけることになつている。どなたも腫瘍を勉強するとき,第1表の如きものが教科書に書かれているのを読み,教授からこれに似た事をきかされ,病理総論の試験前には,このような表を暗記させられた記憶がおありだと思う。すなわちこの表は良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別点は何々であるという事を簡単にまとめたものである。確かにこの表を一見すれば,両者の鑑別は明らかなようにみえるが,実際の個々の腫瘍に遭遇した場合は,そう簡単に区別する事ができないことは,臨床家も病理診断医もよく知つていることである。また病理診断医の最大の任務と多年の努力は良悪性の鑑別を行なうことに向けられているといつても過言ではないであろう。腫瘍は細胞組織が自律性に過剰に発育する病変であると定義してみても,その良性・悪性を区別する基準はあくまで人間がうける被害の程度が一見少ないか,多いかの境界を人為的にまたは臨床的に決めたもので,それは絶対的ではなく,比較的な区別であり,担腫瘍生体が腫瘍によつて局所的に損傷されるか,無限に損傷され,死に至るかの差に過ぎず,つきつめて考えると,その間には無限の移行型があり,そこに本質的な区別をつけることは困難である1)。このように良性・悪性腫瘍の概念は総括的なものであるから,両者の鑑別の基準を,われわれが経験的に知つているいくつかの因子にわけて考えた上,その腫瘍の性質が総合的に良性か悪性かが条件つきで判断できるにすぎない。すなわち精々「良性として治療すべきか」,「悪性として治療すべきか」がわかるにすぎない。
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