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久しぶりで会う人ごとに"あなたの髪,白くなりましたね"と言われる年頃になつてしまつた。髪の白いのはまだ良いが,耳鼻咽喉科医にとつて老視はいささかやつかいなものである。正視の人は眼鏡をかけた経験がなく,ある程度老視が進まないと,本人は気付かないことがある。
今から5年前の46歳頃,その日の新患の診察を終え,一休みしていると,医局員の1人が"カルテの先生の所見には記載されていないが,鼓膜前下部に小穿孔があるように思うのですが"と伺いをたててきた。いつも慎重に見ている積りの自分としては,見落しはしていないはずだと思い込み,「もう一度見直してください」と軽く受け流しておいた。ところがその後2カ月ほどして,今度は他の医局員から中鼻道の小さい鼻茸について同様の問合せがあり,再度鼻鏡検査を行ない自分の見落しであることがわかり,内心愕然としたことが思い出される。さつそく眼科の診察をうけた。「46歳にもなれば老視になるのは当然ですよ。」と言われ,検査の後に近用眼鏡を掛けさせられたが,細かい字があまりにもはつきりと見えるのに驚かされた。それ以後は診察の時には必ず老眼鏡を掛けることにした。さて,私自身は大学病院にあり,眼の良い若い医局員と一緒に診察しているため,自分の老視による見落しを自覚させられたが,自分と同年輩の開業の友人達はどうしているだろうかと思い,ある会合で一緒になつたときに尋ねてみた。正視であつた3人の友人は「私はまだ若いんだ,老眼鏡など使わずに診療しているよ。あんたは大学に残つているから早く老化するのではないか。」と逆に慰められる始末。そこでやおらポケットから老眼鏡を取り出し,無理やり眼鏡を掛けさせて,鼓膜をみるときの距離22cmをへだてて新聞を見させ,次に眼鏡をはずして見させることにより,やはり老視であることを納得させた経験がある。
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