鏡下耳語
臨床鎖談
藤田 馨一
1
1三井記念病院
pp.362-363
発行日 1972年5月20日
Published Date 1972/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207781
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鏡下耳語というよりむしろ独語として読んで頂きたい。読者諸賢には百も承知で既に陳腐と思われることが多いと思うからである。日常臨床にたずさわりながら,たまたま感じたことで印象に残つたことを,紙面の許す限り耳・鼻・咽喉・音声の順に記そうと思う。
〔耳〕 転医患者で外耳道が汚いのが多い。大量保険診療下では丁寧なことをする余裕はないと思うが,清掃だけで耳閉感,耳鳴が治ることがある。可聴閾値付近では,鼓膜の振幅は水素原子の直径に匹敵するというから,微細な耳垢でも鼓膜につくと何か訴えが起きてもよい筈である。乾燥性のものは吸引機で吸い,それで取れないものはオリーブ油で拭うとよい。耳における吸引機の効用はほかにもある。粘液,膿などは外耳道のみならず,鼓膜穿孔を通じて中耳内,鼓膜の裏側に潜むものも吸い取ることができる。洗浄や耳浴の後も,残存水分を鼓室の隅隅から取り除き,乾燥の状態におかなければならない。ピロゾンも泡立ちが終れば後はただの水だし,耳浴に使う薬液も時間がたてば無効になるものが多いから,中耳腔は水浸しのまま放置する訳にいかないのである。ただし吸引の嘴管が太過ぎて鼓膜の穿孔を通らないとか,乳幼児で,ことに外耳道が腫脹している場合,気密に嵌り込んだまま吸引すると,鼓膜を破る恐れがある。また気流による冷えから,めまいが起こる可能性もあらかじめ患者に話しておく必要がある。
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