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病気とはどんなものか。一般には健康でないものは病気だというふうに,簡単に片づけられて,病気の根本原理など問題にされていないようである。そんなことは哲学的に知的満足を得るだけで実際の医学には役にたたないと考えられがちである。哲学者の沢潟久敬博士はその医学概論の中で,「これは哲学的に知的満足を与えるだけでなく,病気の治療にあたつて原理的なものが指示される筈である」と言つておられる。これは一般医学徒にとつて謙虚に受取らるべき助言であると思われる。所見,症候などから行なわれる治療が末梢的に走り過ぎるとかえつてよくない結果をもたらすことが近年しばしば見かけられる折柄,特にこの感を深くするのである。
病気とは何か。病理学の緒方知三郎博士はその著書の冒頭に書いておられる。病気の本態は何かと言われるとこれに答えることは容易でない。それには廻りくどいようであるが,健康な生活から話してかからねばならない。健康は完全な組織構造の持主のみに与えられた生活である。この完全な組織構造を生理的構造と呼び,その現わす生活現象を生理的機能と称している。身体の臓器組織のすべてが生理的の機能すなわち正常な生活を営む時にそれの総和がその人の健康な生活となつて現われてくる。病気は健康でない生活であつて,常に身体の中の一定の臓器組織の機能の障害に基づくものである。その臓器組織の機能の障害すなわち病的機能は,そこに現われた病的の変化すなわち病変のためにその生理的の構造が失われた結果によるのである。こういう次第で結局病気の本態は臓器組織の病変にありということになる。ところが,人体に現われる病変を調べるときわめて多種多様である上病変が互いに混じりあつて,個々の病変として観察することは容易でない。それを多くの学者の努力で現時の病理解剖学は病変を六つの大きな群に分けることができるようになつたと書いておられる。それは,奇形,循環障害とそれに関係ある病変,受身の病変,活動的の病変,炎症,腫瘍の六種である。
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