連載 看護の思想・4
ヒポクラテスの医学思想
青木 茂
1
1東京女子大学
pp.51-55
発行日 1965年7月1日
Published Date 1965/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913652
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第一節 ギリシヤ科学の発生
紀元前600年頃から紀元3世紀頃までの900年以上にもおよぶギリシヤ文化の中に,はじめて宇宙を全体として純粋に自然学的に考察する試みが現われる。宇宙の進行や自然の変化を,これを越えた超自然的・霊的力やその意志,感情の発現としてとらえる思惟様式に代わって,これらを根本物質(アルケー,原理)の自然的な離合集散によって,つまり自然に内在する合理的法則によって統一的に認識しようとする科学的思惟の誕生を見たのである。
一般に西洋哲学史や思想史は,それゆえ,神話論的な宇宙像より合理的抽象的な宇宙像への変革の初動を与えた,イオニアのギリシア植民都市ミレートスの学者たちから,その叙述を始めるのが通例である。ギリシヤ医学,ひいてはヨーロッパにおける「医学の祖」と言われるヒポクラテス(B.C.460〜377年頃)もこのイオニアにほど近いエーゲ海のコス島の生まれである。コス島やイオニアをふくむギリシヤ植民地に,なにゆえ,数千年にわたる長い伝統的な神話的思惟を破る新しい合理的な哲学的,科学的思考が最初に芽生えたであろうか。その原因をまず考えてみよう。
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