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I.はじめに
連続的なくしゃみ発作,多量の水様性鼻汁,鼻閉を特有な臨床症候とする一連の疾患がある。これらは発作の原因として花粉・樹脂・カビ胞子など植物性,家畜(犬猫)などの毛,羽毛など動物性のものの接触吸入,ある種の薬剤食物などの吸入摂取,工場・住居・乗物中の塵埃などの吸入がアレルゲンとなることもあり,また寒冷湿気など気温の変化,自律神経異常,物理化学的刺激などが誘因として起こることもある。また多分に遺伝的素因をもつているものもある。その治療に当つては詳細な問診,皮膚反応,誘発反応などにより,発症抗原を検索しアレルゲンを確認するとともにそのアレルゲンを除去あるいは接触を断つことが第一の根本である。しかしそのアレルゲンの確認が困難のこともありまた不明のこともある。抗原が不明であつてもアレルギー性病因を考え得ざるものも多々ある。アレルゲンが確認できれば特異的減感作療法がある。そうでない場合にヒスタグロビン,パスパートなどによる非特異的減感作療法がある。その他対症療法として抗ヒスタミン剤,抗プラスミン剤,抗セロトニン剤,抗ブラディキニン剤,血管収縮剤,副腎皮質ホルモン剤がある。これら対症療法としての薬剤はいずれも程度の差こそあれ効果が認められているが,中でももつとも効果的なのは副腎皮質ホルモン剤であろう。
コーチゾンが1950年に導入されて以来副作用の少ない多くの種類のコルチコステロイド剤が開発され,鼻アレルギーにおいても屡々用いられる様になり内服筋注による全身的療法,点鼻・Nebu—lizerによる局所療法としてClerici1), Rappa—port2), Stewart3), Arnolsson4), Schiller5),Friedmalaender6), Mortimer7)ら多数の報告がされている。しかしSteroidを局所下甲介粘膜下に注射する報告はMilojevic8), Smith9), Che—vance10),松永・他11),の数例しか見当らない様である。
コルチコステロイドの化学変異体の開発と並行して投薬形態もいろいろ変遷し現在持続性筋注剤としてMethylpredonisolone acetateとTri—amcinoloneがある。これらは俗に「デポ型」といわれ,これらを1日当りの経口投与量の約5倍を筋注すると1〜3週間にわたつて持続性のステロイド効果があるとされている。私は今回このMe—thylpredonisolone acetate (Depo-Medrol)(アプジョン)を,いわゆる鼻アレルギー患者の下甲介粘膜下に注射を行ない期待すべき効果を得たので報告する。頑固なる本疾患に対してはさらに長期観察をもつて効果を論ずべきはもちろんであるが,とりあえず初回成績を記した。
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